筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は、「労作後の不調」(労作後の全身性労作不全)を特徴とする多系統慢性疾患(WHO国際疾病分類では神経系疾患)です。
労作後の不調とは、PEM、または、クラッシュと呼ばれ、体を使う活動、頭を使う作業の後、激しい消耗、衰弱、症状の悪化を引きおこし、何日も、何週間も、身動きの取れないほどの症状に苦しむ全身性労作不全のことです。睡眠や休息で回復する一般的な疲労とは異質のものです。
免疫障害、神経機能障害、認知機能障害、睡眠障害、自律神経障害を含み、その他の症状に、広範囲の筋肉痛・関節痛、咽頭痛、リンパ節圧痛、頭痛などがあります。
厚生労働省調査では、患者数約10万人と推定され、患者の3割が寝たきりか、容易に家からでられません。
成人患者の0~6%しか発症前の身体機能を取り戻すことができません。
病態は不明で、有効な治療法もありませんが、最新の研究では、脳の炎症、免疫異常が報告されています。
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日常生活での活動や知的作業などの簡単な労作の後に急激な身体的・認知的疲労、消耗、衰弱が起こる
消耗は、活動直後、または、数時間、数日後に遅延して起こる場合もあり、神経免疫の極度の消耗は、何日も、何週間も、また、それ以上持続しうる。
情報処理障害や短期記憶の喪失
思考の鈍化、集中力低下、錯乱、二つの仕事を同時に行う際の認知のオーバーロード、決断力低下、ゆっくりとしかしゃべれない、失読症、言語検索障害、何を言っていたかわからなくなる、情報回想力低下など
全身の疼痛、頭痛、筋肉や関節の激しい痛みなど
睡眠リズム障害、疲労回復のなされない睡眠
神経感覚、知覚、及び運動障害
光、騒音、臭気、味覚、触覚に対する敏感性、筋力低下、麻痺、立位での不安定感、運動失調など
免疫系、胃腸器系、泌尿生殖器の機能障害
インフルエンザ様症状、ウイルスに感染しやすい、腹痛、腹部飽満、過敏性腸症候群、尿意切迫感、頻尿、食物・薬物アレルギー、リンパ節圧痛、化学物質過敏
エネルギー産生・輸送の機能障害
起立不耐性、神経調節性低血圧、動悸、ふらつき感、空気飢餓感、努力呼吸、恒温調節不全、四肢冷感、極度の温度に対する不耐性など
診断を決定づけるバイオマーカーや治療法の確立が急務です
日本を含む世界のME/CFS研究機関による原因の究明、バイオマーカー、治療法の確立を心から応援し、彼らの勇気ある戦いに心から感謝しています。
医療界の認知度の低さと専門医の不足
日本には、この病気を診断、治療できる医師の不足や病院側の受け入れ不能などにより診断や治療が受けられない患者が大勢います。最終的にうつ病や自律神経失調症などの精神疾患と混同され、ME/CFS重症患者が段階的運動療法などの不適切な処置を受けて、症状を悪化させることも少なくありません。全国で診察が受けられる医療体制が確立されること、医療・福祉の現場や教育機関でこの病気を神経免疫疾患として取り上げていただけることを願っています。
社会保障が受けられない
重症者は、介護や経管栄養を必要とする寝たきりの方や、極度の消耗と筋力低下により、家から出られない方、外出時は、車椅子やストレッチャーによる移動を強いられている方もいます。2012年7月、患者たちの切なる働きかけが実り、日本年金機構は、全国の国民年金担当課に対し、障害認定困難な4疾患「慢性疲労症候群」「線維筋痛症」「化学物質過敏症」「脳脊髄液減少症」の障害認定業務を適切に行うために、診断書に添付する別紙の「照会様式」を配付するように協力を求めました。これまでは、門前払いだった障害者年金の申請に光が差し込んだものの、診断書や照会様式を書ける医師の不足などもあり、申請にまでたどりつける患者は、一部にとどまっているようです。
身体障害者手帳に関しても、症状が固定されていないことから、受給がむずかしいのも現状です。2015年に施行された障害者総合支援法の対象疾患からももれてしまいました。生活の質を著しく損なわれている患者が、社会福祉サービスを受けられない日本社会を皆で力を合わせて変えていきましょう。もし、皆さんや皆さんのご家族がこの病気を発病しても、日本ではまだ医療や福祉体制が整っていないのです。
対処療法と自費治療
治療法が確立されていないため、それぞれの患者がそれぞれの症状に対する対処療法を行っています。和温療法、rTMS治療、EAT、遠絡療法のほか、ビタミンCやB大量摂取、コエンザイムQ10、高濃度ビタミンC点滴、マイヤーズ点滴、オゾン療法、副腎疲労や機能性低血糖症、重金属蓄積、リーキーガット症候群、カンジタ菌除去などの分子整合栄養医学的な栄養療法や統合医療、食事療法、漢方(補中益気湯など)、鍼灸治療、整体などがありますが、その多くが自費診療です。治療や介護も、車椅子の購入も、自費で行っている患者も多く、生活苦で、治療もままならない方も大勢おられるのです。
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群が複雑かつ重篤な慢性多系統疾患であるにも関わらず、「慢性疲労」という言葉が使われているため、疲労が蓄積する慢性疲労や慢性疲労を起こしうる他の病態と混同し、誤った情報を流し高額な治療費を求める治療院もあります。
偏見と無理解
見た目は、健康な人と変わらないため、「怠けている」「甘えている」と、周りの人に誤解されやすく、患者はつらい症状に加えて、そのような偏見や無理解に苦しんでいます。さまざまなメディアや媒体、インターネット、勉強会、ドキュメンタリー映画上映や専門医の講演会を通じて、ME/CFSへの理解が医療界、社会全体に浸透するようご協力お願いします。
職場での理解や協力が得られない
週に数回働ける中軽症者も、健康な人とは比べ物にならないほどの極度の消耗や痛みと戦っていますが、職場での理解や協力もなく、無理を強いられ、なくなく職を追われるケースもあります。就労支援や職場での理解・教育が必要です。
普通の社交生活を行うのが困難
比較的調子のいい日に人に会うと、健康な人と同じ活動量を期待される場合があります。しかし、患者は、その後、神経免疫系の極度の消耗や症状の悪化で寝込むことがあります。患者は、症状を起こさずにできる活動範囲や時間を常に計算してPEM(労作後の不調・労作後の全身性労作不全)を回避する必要があります。家族や周囲の方も、患者のできる範囲に合わせてエネルギーの消耗や活動時間を管理できるようにご協力ください。患者自身も、無理な場合ははっきりと「No!」と言える勇気が必要です。
小児慢性疲労症候群と不登校の問題
一部の子供たちや青年たちの「不登校」や「引きこもり」の背後にこの病気が隠されている場合がありますが、どんなに症状を訴えても、親も医師も精神的な病と考えて、適切な治療を受けられない場合があります。背後にある小児慢性疲労症候群を見逃さないでください。
精神的サポートの欠如
つらい症状などに加え、孤独や生活苦、偏見、無理解、社会保障の欠如、病院の受け入れ不能など、また、鬱病を併発することがあります。世界では、ME/CFS重症患者の死亡も報告されていますが、死亡原因が自殺であるケースも報告されています。また、何十年も、闘病に苦しみ抜いた患者やその家族が尊厳死を求めて自殺を許容するというような事件も海外では起きています。重症患者の中には、癌患者や多発性硬化症、ポリオなどと同レベルの病状に苦しんでいる人たちもいるのです。患者に対するカウンセリングなどの精神的サポートや福祉サポート、地域の見守りなどが整えられなければなりません。
孤独や症状に打ちひしがれている時は思い出してください!
世界のどこかで、そして、日本のどこかで、あなたのことを応援している人たちがいることをどうぞ忘れないでください!
症状も治療法も、人それぞれ。
同じ病気を抱えている者同士でも症状も人それぞれ。また、世界の患者や医療者、研究者の間でも、まだ解明されていない病気の原因や治療法、診断基準、病名変更に関しての意見の相違があるようです。
でも、世界じゅうのCFS患者や関係者が、原因や治療法の確立、啓発や医療や社会福祉の確立という同じ目標をかかげて、”小さな優しさ”、”小さな力”を結集させるとき、物事や社会を変える大きな力に変わっていくと信じています。
”ペーシング”と”規則正しい生活”を心がけよう!
”ペーシング”とは、疲労や痛みが始まる前に活動を停止するように、活動時間や範囲を患者自身が把握し、病気を管理していくことを指します。
たとえば、個人によって異なりますが、コンピューターはLCDライト防止眼鏡着用で30分まで、人と対面してでの会話は1時間まで、外出は一回2時間までなど、身体的活動、知的活動、感情活動によって起こるPEMを回避していきます。
また、ストレスになる事がらや人間関係を極力避け、交感神経、副交感神経の働きを正常化させるため、規則正しい生活をすることが大切だそうです。(オーストラリアCFS専門医の助言より)
そうは言っても、人との関わりや物事の流れ上、活動を切り上げることができず、後で労作後の消耗や痛みに苦しむということがME/CFS患者にはよくあります。
はっきりとできないときは、No!と言える勇気がME/CFS患者には必須であると同時に、再燃してしまった時に、自分の許容範囲を超えてやりすぎてしまった自分自身を責め過ぎないで、すぐにゆっくり休養して自分を労わってあげることも必要ですね。
日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合開発研究事業 神経・筋疾患分野「慢性疲労症候群治療開発と治療ガイドライン作成」研究班のホームページはこちらをご覧ください。
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)臨床診断基準(案) (2016年3月改訂)
Ⅰ.6ヵ月以上持続ないし再発を繰り返す以下の所見を認める
(医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること)
1. 強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下*
2. 活動後の強い疲労・倦怠感**
3. 睡眠障害、熟睡感のない睡眠
4. 下記の(ア)または(イ)
(ア)認知機能の障害
(イ)起立性調節障害
Ⅱ.別表1-1に記載されている最低限の検査を実施し、別表1-2に記載された疾病を鑑別する
(別表1-3に記載された疾病・病態は共存として認める)
*:病前の職業、学業、社会生活、個人的活動と比較して判断する。体質的(例:小さいころから虚弱であった)というものではなく、明らかに新らたに発生した状態である。過労によるものではなく、休息によっても改善しない. 別表2に記載された「PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」を医師が判断し、PS 3以上の状態であること。
**:活動とは、身体活動のみならず精神的、知的、体位変換などの様々なストレスを含む。
(1) 尿検査(試験紙法)
(2) 便潜血反応(ヒトヘモグロビン)
(3) 血液一般検査(WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像)
(4) CRP、赤沈
(5) 血液生化学(TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、γ-GT、BUN、Cr、尿酸、 血清電解質、血糖)
(6) 甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体
(7) 心電図
(8) 胸部単純X線撮影
別表1-2. 鑑別すべき主な疾患・病態
(1) 臓器不全:(例;肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など)
(2) 慢性感染症:(例;AIDS、B型肝炎、C型肝炎など)
(3) 膠原病・リウマチ性、および慢性炎症性疾患:
(例;SLE、RA、Sjögren症候群、炎症性腸疾患、慢性膵炎など)
(4) 神経系疾患:
(例;多発性硬化症、神経筋疾患、てんかん、あるいは疲労感を惹き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ 頭部外傷など)
(5) 系統的治療を必要とする疾患:(例;臓器・骨髄移植、がん化学療法、 脳・胸部・腹部・骨盤への放射線治療など)
(6) 内分泌・代謝疾患:(例;糖尿病、甲状腺疾患、下垂体機能低下症、副腎不全、など)
(7) 原発性睡眠障害:(例;睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど)
(8) 精神疾患:(例;双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症など)
別表1-3. 共存を認める疾患・病態
(1) 機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome: FSS)に含まれる病態線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、化学物質過敏症、間質性膀胱炎、機能性胃腸症、月経前症候群、片頭痛など
(2) 身体表現性障害 (DSP-IV)、身体症状症および関連症群(DSM-5)、気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)
(3)その他の疾患・病態
起立性調節障害 (OD):POTS(体位性頻脈症候;postural tachycardia syndrome)を含む若年者の不登校
(4)合併疾患・病態
脳脊髄液減少症、下肢静止不能症候群(RLS)
別表2. PS(performance status)による疲労・倦怠の程度(PSは医師が判断する)
0:倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる
1:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある
2:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感のため、しばしば休息が必要である
3:全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*1
4:全身倦怠感のため、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*2
5:通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である*3
6:調子の良い日には軽労働は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している
7:身の回りのことはでき、介助も不要であるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である*4
8:身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している*5
9:身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている
疲労・倦怠感の具体例(PSの説明)
*1 社会生活や労働ができない「月に数日」には、土日や祭日などの休日は含まない。また、労働時間の短縮など明らかな勤務制限が必要な状態を含む。
*2 健康であれば週5日の勤務を希望しているのに対して、それ以下の日数しかフルタイムの勤務ができない状態。半日勤務などの場合は、週5日の勤務でも該当する。
*3 フルタイムの勤務は全くできない状態。
ここに書かれている「軽労働」とは、数時間程度の事務作業などの身体的負担の軽い労働を意味しており、身の回りの作業ではない。
*4 1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態。収益につながるような短時間のアルバイトなどは全くできない。ここでの介助とは、入浴、食事摂取、調理、排泄、移動、衣服の着脱などの基本的な生活に対するものをいう。
*5 外出は困難で、自宅にて生活をしている状態。日中の50%以上は就床していることが重要。
現在、20以上の診断基準が存在すると言われており、海外では、元々筋痛性脳脊髄炎(ME)と呼んでいる国やそのように呼ぶことを主張する研究者・専門家や患者会があります。その妥協案として、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)と呼ぶ傾向があるようです。その反対に、筋痛性脳脊髄炎と慢性疲労症候群が同義ではないという考えの患者会も存在しています。
2015年2月には、米国医学研究所が新しい病名 Systemic Exertion Intolerance Disease(SEID)、及び診断基準を発表しています。病名や診断基準における論争が今も続き、患者は苦しい症状と無理解、福祉サービスを受けられない状況に加えて、病名や診断基準の論争の狭間で何重の混乱と苦しみを余儀なくされています。