ME/CFSウェブセミナー 第50弾 自己紹介とMEに関わった経歴

レオナルド・ジェイソン教授
2014年9月2日
 
レニー・ジェイソンと申します。私は、シカゴのデュポール大学の心理学教授です。コミュニティーリサーチセンターのセンター長でもあります。大学には39年勤めています。
  
MEと関わったきっかけは?
 
1990年代にME研究に関わるようになりました。その時は、この病気は「ヤッピー熱」としてとらえられていました。(*ヤッピーとは、高収入を得ている若い中流階級の人のこと。)
 
CDCが、「4都市研究」と呼ばれる有病率調査をしていて、その結果、この病気にかかっているのは2万人以下だと推定されました。私は、心理学研究者としてこの研究の方法論を見たとき、その研究結果は懐疑的で、重大な誤りがあると感じました。
 
たとえば、医師にMEと診断されている患者たちを研究対象にしていましたが、多くの医師たちは、この病気が存在することすら認めていなかったのに、どうやって有病率研究をすることができたのでしょうか。
 
この研究結果を見て、疑いを持ったと同時に、CDCに毎月MEである可能性のある重篤な疲労についての電話問い合わせが数千件あることを知り、同僚と成人患者の疫学研究をすることにしたのです。
 
 
MEのどんな研究をしたのですか?
 
研究文献を見た後、医師が有病者を確認するという方法よりも最適な有病率推定方法があることを見出しました。私自身とジュディ、リッチマン、そのほか数人の同僚は、NIH助成金を受け、実際に26000人を調べました。そのコミュニティサイズのサンプルの中で、何人がMEにかかっているかを調べました。
 
その結果、有病率は、CDCの推定をはるかに超えていました。1990年の中ごろ、後半には、約100万人がこの病気にかかっているという推定が出されました。
 
これは、私たちのグループが行った最初の大規模研究でした。しかしながら、この基礎的な疫病学の資金集めや研究、発表までには10年という月日を要しました。このような研究には長期的な献身が必要とされるのです。
 
 
 
 
何が最も重要な発見でしたか?
 
有病率が、推定されていた2万人ではなく、100万人を超えるということが最も大きな発見でした。つまり、この病気は珍しいものではなく、「ヤッピー熱」というのはただの神話だったのです。ヤッピー(若い中流階級)よりも、低所得者のほうがこの病気にかかりやすいことがわかりました。少数民族や有色人種のほうが多かったのです。
 
これらは、重要な発見でした。もっと公的な方策がこの病気のためになされるべきだと主張するにいたりました。なぜなら、この病気は希少疾患でもなく、少数の中流階級の人たちがただ単に怠けているというものではないからです。
 
この病気は重篤な病気で、多くの人々が支援もない上、病気以外の損害を受けているからです。
 
 
現在はどんな研究をしているのですか?
 
疫学では、成人の有病率を見出すことが確かに重要だと考えていました。現在、私たちは、地域密着の有病率研究を小児ME患者、若者層に対して行う予定です。
 
また、次の5年間で、単核球症を持つ学生を対象にした研究をし、健康時の状態を調べるつもりです。単核球症が発病した際に何が起きるかを見て、その後、回復する人たちと回復しない人たちをフォローアップします。
 
シカゴの小児病院のベン・キャッツと共に、次の5年間はこの二つの大きなプロジェクトに取り組む予定です。
 
 
先生の研究は心理学的研究ですか、それとも、生理学的研究ですか。
 
現在の研究では、すべての異なる要因を見ることを意図しています。誰が、この病気にかかるリスク要因を持ち、誰がそうではないか。特に、彼らが病気になる前に彼らを調べます。
 
このことは重要なことです。最近発表した研究では、若者層の単核球症を研究しました。基本的に、誰が将来的に重篤なMEを発病するかを、心理学的要因から予測することはできないということがわかりました。発病時の重症度によってだけ、MEの重症度が予測できます。
 
このことは、この病気の発症や継続には、生物学的な要素がもっと絡んでいるということを示唆しているという点で重要な発見です。
 

ME/CFSウェブセミナー第51弾 診断基準と診断

レオナルド・ジェイソン教授 
2014年9月2日
 
先生は、この病気を何と呼びますか。その根拠は?
 
イギリスでは、この病気を随分前からMEと呼び始めましたが、1988年にアメリカのCDCを通して、この病気はCFSという病名に成り下がりました。
 
これを変えようとする動きがあり、実際にその変遷としてME/CFSと呼ぶ人たちもいます。
 
しかし、私は、最終的にこの病気はME、つまり、筋痛性脳脊髄炎と呼ばれるべきだと考えています。これが、この病気の正当な名前だと思います。ある意味、MEは30年前にハイジャックされましたが、元の名前に戻す必要があると考えています。
 
CFSという病名はこの病気を矮小化していますか。その根拠は?
 
CFSという病名は1988年にCDCがつけたひどい用語です。もし、だれかが咳をしていて、その人が「慢性咳症候群」にかかっていると言っても、人々は、「だれだって、咳をするじゃないか。そんなことはどうでもいい。」と言うでしょう。大事ではないのです。
 
しかし、もし、それを気管支炎や肺気腫という病名で呼ぶと、「深刻な問題のようだ。」と人々は言うでしょう。病名がものを言うのです。病態を矮小化するような病名を使ってはいけません。慢性疲労症候群という名前は、最終的には変えなければならない病名の一つです。
 
私たちのグループは、帰属を見るための研究をしました。
まず、MEという病名をあげ、事例の説明を与えました。
次に、CFSという病名、そして、フローレンス・ナイチンゲール病という名前をあげました。
 
同じケーススタディを行いましたが、名前によってこれらの事例をどのように捉えるかに大きな違いがあることがわかりました。医学生や心理学専攻の大学生に対してこの研究をしたのですが、どの用語を使うかによって、帰属が変化したのです。
 
 CDC診断基準の何が誤りなのか?
 
CDC診断基準はしばしば1994年福田診断基準と同じだと考えられています。これらは、あるグループの合意の元、作られました。合意を基礎にした定義には、問題があります。
具体的に言えば、8つの症状のうち4つの症状があれば診断されるという部分に問題があります。これでは、この病気の主症状を見逃す危険があるからです。たとえば、3大症状は、労作後の疲労、記憶力と集中力の低下、疲れのとれない睡眠です。
 
しかし、もし、患者に4つの他の症状があるが、この3つの主症状がない場合でも、患者はCFSと診断されてしまうのです。病気の主な特徴が診断に要求されないというのは、病気を分類する上で大きな問題です。
 
先生は、現在の研究でどの診断基準を使用しているのですか?
 
私たちは、いくつかの診断基準を使用し、アンケートに答えてもらうようにしています。そして、実際にその患者が1994年福田基準に達しているか、2011年のICCによるME診断基準とカナダのME/CFS診断基準をクリアしているかどうかを見ます。
 
私たちは、この3つを比較し、対照しています。
しかしながら、この3つすべてに限界があります。
 (医師の)合意を基礎にする診断基準は、おそらくこの病気を特徴づけるのには最適な方法ではないと考えています。
 
先生の2013年の手引書と2011年-2012年のICC/ICPの違いは何ですか。
 
IACFS/MEは、2003年のカナダ診断基準を使用した手引書を出しました。私たちは、この定義には、かなりの量のリサーチが行われ、より機能的な障害を持つ小さい患者グループを選択して行われたものであるということを知りました。
 
そこで、私たちは、10年ほど使用されていたこの事例定義を中心に手引書を作成することにしたのです。最も重要なことは、主症状である労作後の疲労、記憶力と集中力の低下、睡眠障害があげられていることです。
 
このため、私たちは、1994年福田基準を改善するという意味で、この事例定義を中心に手引書を作成することにしました。事実、2011年と2012年にICC基準ができましたが、この基準にはカナダ基準ほどの研究がなされていませんでした。そこで、私たちは、研究者たちにより使用されているものを起用することにしたのです。

ME/CFSウェブセミナー第52弾 診断基準と診断 パート2

レオナルド・ジェーソン 

2014年 9月9日

 

MEの原因は何だと思いますか?

 

MEの原因にはさまざまな意見があります。明らかにウイルス感染や時に単核球症などがきっかけで発病する人たちがいます。他の人たちは、ある種の事故がきっかけでこの病気を発病することがあります。また、環境毒素やカビなどにさらされたことによる人もいます。

 

このように実際にはかなりの異なるタイプの事例がこの病気に陥らせる原因になっています。他の慢性疾患と同じように、患者たちが、MEを発病するべくある程度の遺伝的傾向を持っているという可能性もあります。しかしながら、少なくとも現時点ではMEを発病する人たちには多くの引き金があるようだということだけは言えます。

 

MEにつきまとう汚名の原因は何ですか?

 

ME患者は、ひどい汚名を着せられます。多くの人が何故そんなことになるのかと不思議がります。デュ・ポール大学の我がチームは、汚名を測定するスケールを作りました。現状を知るための鍵を見つけるためです。

 

私たちの社会は、何よりもエネルギーやスタミナ、耐久性を重んじる社会です。ある意味で、エネルギーは、お金よりももっと大切なものだと考えられます。そこで、もし、このようなエネルギーの質を兼ね備えていない人がいれば、彼らは、どんな人種差別や少数派グループよりももっと差別されるのです。なぜならエネルギーはアメリカンドリームを可能にするものだからです。疲労を持つ人々は、ある意味欠陥人間のような扱いを受けるのです。

また、誰でも生きていれば疲労を感じるものです。マラソンレースに参加したからかもしれないし、複数の仕事をこなしているからかもしれません。ほとんどの人が経験する普通の疲労というものは休暇をとればおそらくすぐ消える類のものです。もしくは、責任が軽くなりストレスが減れば、消えてしまいます。このようにほとんどの人は、疲労というものをME患者とは全く異なる見方で捉えています。

ME患者がエネルギーや耐久性、スタミナがないと言うと、他の人たちは、「私だってやらなければならないことがたくさんあるけど、やり続けている。どうして、あなたはそうしないの?」というリアクションをします。もっとひどい場合には、「あなたは病気には見えない」などと言います。このような疲労に対する異なる見解が、ME患者自身に問題があるのだと社会に思わせてしまいます。まるで、21世紀のハンセン病のようです。

先生は、MEを除外診断によって診断しますか?また、何を包含しますか?

 

MEの診断には除外だけでなく、包含も大切だと思っています。医師たちは、患者には主症状があることを理解しなければなりません。たとえば、労作後の疲労感などです。この病気であると診断されるためには、この症状がなければなりません。

 

ある問診表には、患者が運動の後24時間以上の疲労感があるなどの症状がなければならないとありますが、これらの問診には問題があると思いまます。なぜなら、多くの患者は、病気であるがゆえに無理をしません。彼らは、労作後の疲労感に陥らないように、ある意味自制をすることを学んでいるからです。

 

このことについては後で話しますが、彼らは、“封筒”に少しばかりのエネルギーの泡を持っています。もし、無理を強いられたり、他の人たちのように日常の家事などをさせられたら、労作後の疲労感を経験する患者もいるでしょう。しかし、彼らはそのようなことをしていないから、労作後の疲労を感じない場合もあるのです。そこで、医師が患者に労作後の疲労感が24時間続くかと聞かれれば、彼らは「いいえ」と答えます。しかし、現実にはもし日常生活の活動をしなければならない状況にあれば、その症状は起こるのです。

そこで、私が言いたいことは、このような複雑な症状に取り組む場合に、注意深く質問を作成する必要があるということです。もし、患者を運動用自転車に乗せ、チャレンジをさせれば、彼らには労作後の疲労が見られるでしょう。特に次の日ではなく、2日後くらいにです。なぜなら1日後は、彼らは無理をして格好をつけてがんばり、酸素供給もうまくいきますが、2日後にテストをすれば労作後の疲労が見られるはずです。

 

繰り返しますが、運動やチャレンジ、自己報告の問診表の解答を行わせる時は医師はどんな質問の仕方をするかを注意深く考えなければなりません。こうすることで、医師たちは、誰が本当に主症状を持っているのかを見分けることができるのです。誰も、他の病気である患者を自分の研究や診察に間違えて取り込みたくはないでしょう。

 

 

 

多発性硬化症や癌からくる疲労感、その他薬による疲労を及ぼす病気の患者たちを医師は除外しなければなりません。この疲労が、憂鬱を伴う大うつ病など、精神医学的な理由で起きている疲労であるならば、彼らを除外しなければなりません。医師は、その他の病気ではない、純粋なMEの人を見分けたいわけです。

 

MEを診断するために、患者は3つの主症状がなければなりません。ひとつは、労作後の疲労感、記憶力や集中力の低下などの神経認知障害、そして、疲れのとれない睡眠です。これらがなければなりません。その他、免疫系、神経内分泌系、自律神経系などの他の症状ももちろんありますが、この3つの主症状があることが絶対条件だと私は考えます。

 

 

 

デュポール問診表とは何ですか?何がその焦点ですか?

 

 

 

過去15年間、デュ・ポール大学では、患者の症状を評価するために自己報告問診表を使用する方法を開発してきました。最新のものは、デュポール症状問診表と呼ばれています。現在、世界じゅうの誰でもダウンロードして使用できるように「レッドキャンプ」というシステムにアップされています。

 

54個の質問に答えてもらうことで、患者の現在の症状をはかるのに役立てています。5段階でそれぞれの症状にランク付けをしてもらいます。この問診表に関する信頼性と妥当性の基礎的な研究をしてきましたが、その結果、クリニックや研究での使用に適していると考えています。また、このスケールを現在使用している他国の調査も行っています。

 

 

 

 デュ・ポール症状問診表は、誰でも使えるのですか?

 

 

 

この問診表は誰でも使用できます。クリニックで患者に渡すこともできますし、研究者やその被験者にも渡して解答してもらうことができます。私たちがこの問診表で気に入っていることは、解答のパターンが算出できることです。患者がこの問診表に解答した後、どの診断基準を満たしているかをスコアで見ることができます。こうすることで、問診表に答えた人が診断基準の中で、いくつの症状があるかを見ることができます。

 


ME/CFSウェブセミナー 第53弾 ME VS 精神疾患

レオナード・ジェイソン教授 2014年9月23日

 

 MEと大うつ病の混同:何が違うのか?

 

私たちは、大うつ病性障害と筋通性脳脊髄炎の違いを調べるために多くの年月を費やしてきました。ごく手短に言うと、もし、大うつ病性障害の人に「もし、明日良くなったら、あなたは何をしますか?」と質問すると、その人は「わからない」と答えるでしょう。ところが、同じ質問を筋通性脳脊髄炎患者にすると、その人は、やりたかったが病気だったからできなかったことのリストを並べ始めるでしょう。

 

大うつ病の人には自己非難がありますが、ME患者には自分自身に対するそのような否定的な感情がありません。大うつ病患者にはあるのです。自責の念や将来への期待、そして、運動に関してもその違いがあります。

 

大うつ病の人は運動をすると具合が良くなることがしばしばあります。一方、ME患者が運動をすると労作後の疲労を引き起こすことがわかっています。ここに、この二つの病気の明らかな違いがあり、はっきりと識別することができるのです。

 

大うつ病と筋通性脳脊髄炎には生物学的な違いがありますか?

 

身体的な違い、生物学的な違いが大うつ病とME患者にあることも、実際に多くの研究が示しています。たとえば、コルチゾールレベルがME患者では低い傾向があるのに対し、大うつ病患者では高い傾向があります。

 

私たちの博士号の学生の一人は、患者が自己解答した問診票の結果を見せただけで、この二つのグループを100%見分けることができました。方法が正しければです。この点から、問診票の構築は非常に重要だということがわかります。なぜなら、もし、問診票の質問が正しければ、ME患者を他の病気と区別することができるため、研究にとってはそれが決定的に重要になってきます。

 

最も優れた研究は多様な専門分野を駆使し他方面からの見解から物事を見るものです。たとえば、自己解答の問診票は簡潔であり、その人が持っている基本的な症状を見つけられるものでなければなりません。それから、身体検査によってフォローアップし、他の病気を除外していくのです。もし、患者が、全身性トリトマトーデスや多発性硬化症なら、彼らを除外します。

 

また、何かのチャレンジを使用することもあります。たとえば、max またはsub-max テストで患者に運動チャレンジをさせるなどです。こうすることで、ME患者とそうではない人を見分けるいくつかの遺伝子マーカーが示されるでしょう。

 

必要なのは、最適なデータであり、それによって自己報告と医学的領域に対する総括的な評価ができます。こうすることで、この病気をより適切に特色付けることができます。もし、これらの領域の一つでも見過ごせば、ME患者を理解するのを助ける機能の重要なエリアを見逃すことになります。

 

MEと混同される他の精神疾患がありますか?

 

大うつ病のほかに、よく混同される他のタイプの精神疾患があります。たとえば、身体化障害はMEと混同される病気のひとつです。不安障害もまたMEと混同されます。

 

もし、医者に診察を受けに行くなら、きちんとした精神医学的なインタビューを受け、特定の障害があるかどうかをきちんと確かめるということを私は勧めます。なぜなら、私たちはME患者を識別したいからです。

 

医師は、残念なことに、精神医学的な評価をする訓練を受けていません。そこで、医師たちはその人が大うつ病性障害なのか、身体化障害なのかどうかがわかっていません。

 

そこで、重要なのは、MEだと診断する前に総括的な医学的な検査と共に精神医学的な評価をするということです。なぜなら、別の原因があるなら除外するべきだからです。

 ME患者にとって鬱はどんな関わりがありますか?

 どのように治療するべきですか?

 

すべての慢性疾患において、患者は鬱に陥る可能性が高いです。ME患者も例外ではありません。すべてのME患者がそうだというわけではありませんが、鬱になる人もいるということです。

 

少し考えてみてください。もし、多くの人に理解されず、信じてもらえず、しばしば疑問視されているような病気に自分がかかってしまったとしたら、その人が衰弱し落胆するのは当然です。時に患者はほぼ絶望状態にも似た落胆を経験するのです。

 

同様のことは、どんな慢性の病気でも起こることだと理解しなければなりません。慢性疾患によって引き起こされる鬱は、彼らが経験していることを周りの人が正当化しようとする時起こります。

 

患者のサポート体制を調べる必要があります。一番致命的なのは、両親が子供が病気であることを信じていない場合や職場の仲間が病気であることを信じてくれないなど、そこに落胆と疑念がある場合です。社会によく理解されていない病気の被害者となった患者の絶望と失望を治療し始めるためには、まず、(この無理解が)取り去られなければなりません。

 

ME患者にとって大切なことは、その患者が持つすべての症状を治療することだと思っています。たとえば、痛みがあるのなら、何かしらの薬で対処すべきですし、もし、患者が他のタイプの症状があるなら、すべての可能な薬を考慮すべきです。

 

患者が必要なのは、異なる問題に対処してくれる可能な限りの最善のチームなのです。それは、栄養士かもしれないし、理学療法士かもしれないですし、また、患者が助けを必要しているのは異なる問題かもしれません。

 

 患者のニーズに対応する治療チームが一丸となって患者を力づけるべきです。薬理的なもの、そうでないものも含めた介入でそれぞれの個人のニーズに合った治療プログラムが組まれるのが、成功の鍵です。

 

 自閉症的な障害、多発性硬化症、パーキンソンやアルツハイマーとMEの類似性について

 

 MEと多くの他の疾患との比較については、まだ研究が十分に行われていませんが、類似性と相違点を知る上でもこのような研究が行われるべきだと思っています。

 

たとえば、多発性硬化症のことを言えば、私は同僚のマシュー・ソレンソンと多発性硬化症患者の脳内プロテインを調べる論文を書き終えたところです。その研究でME患者は、多発性硬化症患者と同様にBDNFと呼ばれる脳のプロテインレベルが低下している傾向があるということがわかりました。これは、多発性硬化症の主な生物学的マーカーの一つです。

BDNFという脳内プロテインが何を作るかと言いますと、それは電気インパルスを脳に送る役割をするミリエン鞘です。このようにここでも、私たちはまだよくわかっていませんが、多発硬化症と筋痛性脳脊髄炎には類似性がある可能性があるのです。しかし、このことを理解するために将来もっと比較生物学的研究をするつもりです。


ME/CFSウェブセミナー 第54弾 MEの治療と管理

2014107日 レオナルド・ジェーソン教授

 

 
MEの治療における心理学者の役割は何ですか。

 

 

 

心理学者やメンタルヘルス専門家は、MEを含む慢性疾患患者の治療に重要な役割を果たします。メンタルヘルス専門家がするべきことは、まず、患者が経験していることを認めてあげることです。私たちは、その一個人の言うことを傾聴し、彼らの味方にならなければなりません。彼らがどんな状況に置かれているのかをよく理解するように努め、共感的な関係を築き上げるべきです。

 

 

 

このことはME患者にとって特に重要です。なぜなら、彼らは医療界やその他の人々に苦しめられているからです。そこで、私たちが患者を信頼しているということや彼らを気にかけているということを患者に知らせるという意味で、この信頼関係は非常に重要です。このような基本的な信頼関係がなければ、専門家は何の役にも立たないばかりか、逆に患者に害を及ぼすことにもなりかねません。

 

 

 

どのようにすれば、心理学的アプローチが優位に立つことを避けることができますか?

 

 

 

ME患者が質のいいケアを得るためには、多分野における最善のチームが必要です。ME患者を精神科医や心理士のところにただ単に送るというのは間違いです。この病気の多くの異なる症状に対処するためには、おそらく様々な医療サービスが必要だからです。

 

 

 

考えてみてください。もし、ある癌患者が医療者のところに行った時、医師に「精神科医か、心理学者のところに行きなさい。あなたに必要なのはそれだけです。」と言われたら、その患者は大変気分を害するでしょう。これが、世界じゅうのME患者に起きていることなのです。

 

 

 

先生のご意見ではMEの有効な治療法は何ですか?

 

 

 

MEの治療には様々な種類があります。私は、心理学者なので生活スタイルの分野のことを少しお話ししたいと思いますが、医療の世界では、痛みや睡眠障害などの症状に対するたくさんの良い治療法があるということも言っておきます。

 

 

 

生活スタイルに関して、患者は、だいたい病気発症以前の生活の10%-20%のエネルギーしかないと感じています。彼らのバッテリー、つまり、電池の蓄えは低下しているのです。ところが、患者は自分の責任を果たすためにしばしば自分の持つエネルギーの2倍の活動をしなければなりません。これが問題なのです。

 

 

 

そこで、生活スタイルの管理として私たちはどのように患者たちがやりすぎて消耗しきったり、労作後の不調に陥らないように指導することができるでしょうか。それは、患者に自分のエネルギーの範囲内にとどまることを学ばせることだと思います。

 

 

 

これを「エネルギーエンベロップ(エネルギーの封筒)」と呼んでいます。重要なのは、エネルギーエンベロップの範囲内にとどまることでそれ以上バッテリーが低下するのを避けることです。

 

 

 

多くの患者は“ヨーヨー”のようです。患者に何が起きているかというと、彼らは非常に具合が悪いと、あまり活動をしないか、(エネルギーが消耗しないように)注意を払いますが、少し回復すると、再びやりすぎてしまうのです。それで、クラッシュを起こします。これが、「ヨーヨー効果」です。このことが起きないように手を尽くすことがME患者の生活スタイルを管理するためには非常に重要になってくるのです。
認知行動療法と段階的運動療法の利点と欠点は何ですか?

 

 

 

認知行動療法は、多種の疾患に対して有効だとされる療法です。なぜ、ME患者にとってこの療法が論議をかもし出してしまうかというと、それは、子の療法がしばしば唯一の方法として提示されるからです。

 

 

 

たとえば、もし、薬の処方が必要な”てんかん患者”が「われわれは、認知行動療法だけを使います」と言われれば、その患者は憤慨するでしょう。しかし、このようなことが、ME患者に実際に起こっているのです。

 

 

 

ME患者のニーズは、精神医学的な問題をはるかに上回っているのです。彼らには肉体的な問題があります。彼らには、身体器官の機能障害があります。生物学的な異常が見られるのです。

 

 

 

彼らには、医療的なケアと治療が必要なのに、彼らは非常に狭い見解の中に押し流されてしまうのです。だから、患者は気分を害しているのです。なぜなら、彼らには、適切な医療ケアが与えられていないからです。彼らは、自分たちのニーズに合わない不適切な医療ケアしか与えられていません。

 

 

 

 

 

ペーシングとは何ですか。エンベロッピングとは何ですか。その違いを教えてください。

 

 

 

多くの人々は、“ペーシング”について語ります。エレン・ゴーズミットがイギリスでその発展について書いたことがあります。

 

 

 

アメリカでは、「エネルギーエンベロップ(エネルギーの封筒)」という概念を使っています。この二つのアプローチには違いよりも、類似性のほうが多いと言えるでしょう。

 

 

 

この両方が提案しているのは、患者が持っているエネルギーを非常に敏感にその人に適合したわかりやすい形で管理することを患者に学ばせることです。

 

 

 

たとえば、以前は、通常100%のエネルギーのバッテリー容量があった人が、20-30%の容量しかないとします。つまり、今はほんの一部しかありません。どうやって、この人はこのような限られた少ないエネルギーで生活をすることができるでしょうか。

 

  

 

そこで、私たちが訴えるのは、ペーシングをすることやエネルギーエンベロップにとどまることです。つまり、今あるエネルギーの範囲内でとどまる努力をし、それを超過せず、自分自分に無理をさせないことです。なぜなら、もし、患者が無理をすれば、もっと多くのクラッシュや労作後の不調を経験することになるからです。これは、最終的に、脳の酸化ストレスをさらに生じさせます。患者にとって非常に負の結果をもたらすのです。

 

 

 

ペーシングやエネルギーエンベロップとは、適切なライフスタイルの変化であり、これが改善につながります。治癒ではないですが、多くの患者に改善をもたらすのです。

ME/CFSウェブセミナー 第55弾 MEの症状と治療法

MEにおける神経系との関わりは何ですか。

 

この疾患の患者には神経系の異常が見られるという証拠があります。ユタ大学のアラン・ライトやキャシー・ライトの研究は、患者に亜最大運動負荷試験を行ったとき、いくつかの遺伝子マーカーが見つかったことを示唆しています。私は、神経系の領域において患者は重要な問題を抱えていると考えています。そして、それらはこの病気に直接関係があると思います。

 

ほとんどの患者に見られるのは、交感神経が副交感神経よりも優勢であり、彼らの体はある意味「チューンアップ」されているということです。患者にはしばしば「神経の高ぶり(興奮、神経過敏)」と呼ばれる症状が見受けられます。患者がよく使う表現です。彼らは疲労困憊しているのに、神経が高ぶっている状態なのです。

 

ある意味、彼らのシステムは、上方制御されており、私たち医師は全力で患者のシステムが下方制御するように助ける必要があります。時々患者が試すクロノピン(*不動発作、てんかん、自律神経系発作に使われる)やその他類似した薬剤がシステムを下方制御させるのを助けることがあるようです。このように、私は多くの患者は上方制御されていると考えています。

 

ME患者と血液循環の関係は何ですか?


多くのME患者が健康な人よりも血液供給が低いことがわかっています。そこで、彼らが起立する際など、体に負担をかけるとき、起立性ストレスを経験します。脳に十分な血液が流れていないことがしばしばあり、患者は時に気を失いそうになったり、具合が悪くなったりします。これは、起立する際、体から脳に十分な血液がまわらないからです。患者には深刻な血液循環上の問題があるようで、起立不耐性はそのひとつの表れです。


どのように労作後の不調を測ることができますか?


労作後の倦怠感は、自己解答の問診表によって適切な質問をすることと共に、患者を自転車こぎや、20分までの亜最大運動負荷試験などを行わせるなどの運動検査によって測ることができます。労作後の消耗という複雑な症状を理解するためには、患者が訴えていることを見ると同時に、研究室環境で患者がどのようなパフォーマンスをするかを見ることが重要です。

MEと感染症との関係は何ですか?


多くの患者はなにかしらのウイルス感染の後に、症状を起こし始めます。あるサンプルでは、患者の70%までが何かしらのウイルス感染があったことを報告しています。これらの感染症とこの病気との関与を理解するためには、長期的な前向き研究を行うことが最も適切な方法です。


たとえば、シカゴで私たちはChildrens Northwesternのベン・キャッツとともに研究をしています。長い月日をかけて何千人という健康なカレッジ学生を追跡し、誰が単核症を発病し、そのうちの誰が回復し、誰が回復しないかを調べるつもりです。こうすることが、この病気の病因や病気の継続に、ある特定のウイルスが関与しているのか、それとも、他の要因があるのかを調べる最も有効な方法です。



MEを見分けるマーカーはありますか?
 
MEのマーカーについては、いくつかは判明し始めていますが、将来的には多くが見つかるでしょう。そのうちで明らかなのは、コルチゾール値の異常です。朝のコルチゾール値の上昇が少ない人たちがこの病気であることの良い目印になります。
 
NK細胞の活動もまた多くの記事で取り上げられています。また、その他のマーカーを持つサブグループの患者もいるかもしれません。将来的にはもっと多くのマーカーが発見され、検査室でも見分けることが出来るようになることを望んでいます。
 
しかし、病気のバイオマーカーを見つけたいなら、異なる場所に同じ型の患者がいる場合のみ可能です。だからこそ、症例定義が非常に重要になってくるのです。首尾一貫した生物学的マーカーを見つけるためには異なる場所で同じ型に当てはまる人たちが確認できなければならないのです。これは非常に重要なことです。なぜなら、もし、生物学的マーカーが見つからないなら、患者は生物学的な病気ではなく、心因性、または精神疾患であると思われてしまうからです。
 



ME/CFSウェブセミナー第56弾 集団と社会的影響

MEを発病する危険性は、性別、人種、

遺伝や職業によって高くなりますか?

 

世界の異なる地域でMEの発症には違いがあるのかという疑問を持った人たちがいました。確かに、MEがヤッピーと呼ばれる白人の高収入者の間で、より躊躇に見られるという伝説が初期にはありました。これは事実ではありません。

 

ME患者はむしろ低所得者にもっと多いことがわかっています。これは、とても重要なことです。アメリカでは、MEは少数民族や白色人種以外の人(黒人)により多く見られる傾向があることもわかっています。ナイジェリアでコミュニティベースの研究を行ったところ、MEの発症率はアメリカより高いことがわかりました。

 

このように、MEは、世界じゅうの異なる場所で発症しています。どのグループがよりその発症率が高いかはまだわかっていませんが、わかっていることは、アメリカでは明らかに、社会経済的な地位が低い人々のほうがこの病気を発症しやすいということです。

 

MEが人種と関係しているかどうかは、まだよくわかっていません。起立不耐性などのMEの症状のいくつかは、アフリカ系アメリカ人と白人では違いがあるようです。はっきりとこれらの事実を明らかにすることはできません。たとえば、ラテン系アメリカ人は他のグループよりもMEの発症率が最も高いということがわかっています。また、特にラテン系では、女性のほうが男性より多いことがわかっています。これは興味深い結果でした。また、ラテン人の中でアメリカ社会に文化的に順応している人たちは、文化に順応できていない人たちとは異なる発症率であることもわかりました。

 

遺伝については、おそらく、遺伝的に多くの慢性疾患にかかりやすい傾向がある人たちがいて、MEもおそらくその良い例です。これについてはもっと多くの研究がなされなければなりませんが、私の予想では、いつかはっきりとした結論が出ると思っています。

 

MEが特別なグループに発症する可能性が高いかどうかは、今後の研究でよりよく理解できるようになるでしょう。現在のところ、私たちはまだこの疾患の危険因子を解明しようとしているところです。この病気の遺伝子マーカーを見出すために最も適した研究は、健康な人たちの遺伝子を長期間にかけて観察し、誰がMEを発症し、誰が発症しないかを見ることだと思います。そして、環境や生物学的なその他の危険因子を見ることです。このようにするのが、環境因子や異なる危険因子の役割と遺伝子の役割を紐解いていく方法です。

 

 回復率についての長期的な研究で何がわかりましたか?

 

ME患者に対する長期的な研究はあまり数多くありませんが、より長期的にこの病気にかかっている人は、認知症状やより多くの症状を持つ傾向があるようです。現在、私たちは長期的にこの病気にかかっている人を対象にした論文を書いているところです。この領域については、あまり多くの研究発表がなされていません。しかし、病気の長さが重症度に関連しているようです。


ME患者にはどのような機能障害がありますか?また、その障害の重篤度はどのくらいですか?

 

ME患者には、癌やその他のとても深刻な慢性疾患などの主要疾患にも見られるような重篤な機能障害があります。彼らはひどく病気なのです。最高の医療ケアを本当に必要としている患者たちが、しばしば最悪のケアしか受けられていません。

 

患者の最もひどい機能障害は、物事を行うための身体的能力にあります。おそらく、患者たちが最も大きな限界を抱える領域は、忍耐力、スタミナです。

 

時に、患者は物事を思い出すことができず、また、何故今していたことをしているのかわからなくなるなどの認知の混乱もあります。これが、しばしば仕事環境で患者を困らせる原因です。時間をかけて何かを一貫して行い、次の日に続けるということができないという身体的障害もあります。多くの障害が見られますが、特にこの労作後の障害が多く見られます。認知的な作業では、思考したり、物事を思い出したり、集中することに困難を覚えるようです。患者には、神経認知機能障害や労作後の機能障害が見られるのです。

 

個人や社会における損失は何ですか?

 

経済分析が時々行われ、アメリカでは私たちのグループが割り出したME患者の種々の問題に対する損失は年間に2百億ドルにまでのぼると推定されます。しかし、本当の損失は患者自身がこうむっています。私たちの知る限り最も深刻な病気のひとつにかかりながらも、最も総括的ではない治療を受けているというのが現実なのです。私たちが考えうる最も深刻な問題のひとつを抱える個人がいるのに、彼らは、本当にこの病気であるかの正当性までも疑われているのです。こんなに病気の人が病気であること自体を疑われるということ以上に、最悪な個人的損失があるでしょうか。

 

政府の財政的支援のレベルは非常に低い状態です。本当に必要なのは患者が行って、診断を受け、治療を受けられる場所です。アメリカでは、このような場所が存在しません。


もし、癌なら、、、もし、多発性硬化症なら、、、専門のクリニックに行き、適切な診断と最高の治療を受けることができます。しかし、たとえば、私はシカゴに住んでいますが、ME患者を治療できる専門医がここにはいません。これが問題なのです。


そこで、私たちに必要なのは、患者たちに医療サービスを提供できるヘルスケアなのです。現在、彼らはそのようなサービスを受けられないどころか、患者に最も有効な薬理学的な治療法を発見するために必要なデータを供給する研究費さえもありません。研究の面でも、サービスの提供の面でも、我が国民に多大な影響を与える深刻な問題を抱えているにも関わらず、非常に低い資金しか投資されていないのです。

 

このME患者を取り巻く遺憾な状況を改善するために何がなされるべきですか?

 

ME患者のためにやるべきことに関して言えば、私は実は、昨年「社会変革の原理」という本をオクスフォード大学プレスから出版しています。この本の中で、私が記したことは、これまでの社会変革運動がどんな変化をもたらしたかということです。そこには、市民権運動や女性解放運動などがあります。そして、最終的にはそれは忍耐することであり、長期にわたってあることに専心し続けることで、基本的には、起きている権力の乱用に立ち向かうためにコミュニティが一丸となって連合することです。


構造的な問題にも直面します。私たちは上手に組織し、もっと効率的にならなければなりません。私たちは、根本的にME患者の現実を変えなければならないのです。私たちが集合体として行動をすることで、この状況を本当に変えることができるのです。多くの別の疾患グループ、特に、HIV/AIDS患者グループもその現状を変化させたように、この病気の人々が認知され治療を受けられるような変化を巻き起こすことは可能なのです。

 

どのような社会サポートが助けとなりますか?

 

子供を保護する親や家族、保護者、配偶者、病人の権利のために立ち上がることのできる親たちを巻き込んだ患者のための社会的サポートが必要です。医療、福祉サービスだけでなく、教育分野の人々、そして、患者の特別なニーズを満たすことのできる職業の人々の支援が必要です。

 

わたしたちは、まず、この病気がれっきとした病気であることを認め、患者には障害があることを受け入れようとする心構えが必要です。また、彼らの経験を正当だと認め、彼らの必要を満たすために彼らと共に歩んでいかなければなりません。


個人に合わせたアプローチが重要です。ソシアルネットワーク全体が動員されなければなりません。つまり、患者の兄弟姉妹、両親、祖父母、彼らの教会の人々、医療関係者たち皆が関わるということです。すべての人がチームになって患者の人生がもっと生きやすくなり、生活の質が向上するように必要な敬意と支援が与えられなければなりません。


ただ単にME患者だけがこの変革を起こすということではありません。彼らは病気なのです。病気ではない人たちがこのことに関与すべきです。関心のある人たちや配偶者たちです。「もうこれ以上は我慢できない、私たちは変化を起こす」という人々による社会の変革運動です。「現状を変えなければならない」という多数の人々が一丸となるのです。その時、社会変革運動がスタートします。それは、一つの国ではなく、複数の国々で起こるでしょう。

 




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