「ME Global
Chronicle」というME患者やサポーターが発行しているメールマガジンがある。
世界のME医療者や患者会の方々の投稿をまとめて、2ヶ月に一度、希望者に無料で配信されているものだ。
色々な国からの投稿があり、他国での様子やME界のさまざまなニュースや記事を紹介している。
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以下は、今回の最新号 第9号に載せられていた記事のうち、興味深いニュースをピックアップして要約してまとめたものである。
IOMが提案している新しい病名と診断基準についての記事
IOMが提案している新しい病名と診断基準への反応として、David Egan氏が 「The IOM Disaster(IOM災害)」と題して、新しい病名SEID(全身性労作不耐病:まーくハウス訳)が、いかに物議をかもしだしているかを論じている。
癌や多発性硬化症でも、”労作不耐”があるという論点から、”この病名はME/CFSについて何も特徴的なことを語っていない”とEgan氏は訴える。
IOMのレポートでは、ME/CFSが重篤な身体疾患であると認めているが、そのことが今回の簡素化された新診断基準には反映されておらず、以前から物議をかもし出している1994年の福田基準とほとんど変わらないと批判する。
新しく加わったのは、起立不耐性のみで、免疫系、ミトコンドリア、神経系、HPA軸、遺伝、胃腸系、
マイクロバイオーム、心臓などの異常などはすべて排除されていて、
この基準は、曖昧で不明瞭な診断基準であると語る。
多くの患者が、「地獄に取り残され、その結果、早すぎる死に追いやられる危険性にさらされる」とのべている。
また、IOM診断基準は、併発疾患に精神疾患を含んでいることで、多くの精神疾患患者がSEIDに含まれるようになり、医師や研究者をますます混乱させ、研究結果の信憑性を失うことを懸念している。
ロンドンの精神科医の関与がこのIOM診断基準にあるのは明白で、多くのすでに知られている身体的バイオマーカーが無視されていることがその証拠だとしている。
ME/CFSに対する精神医学の関与により、認知行動療法や段階的運動療法などへの研究のためにNIHやイギリス、EU政府の研究資金が無駄につかわれてきたが、
その反面、信憑性のたかい生物医学的研究も行われており、この病気のバイオマーカーは証明されているとEgan氏は語る。
ノルウェー政府は、免疫の異常に目をつけ、抗がん剤リツマキシブの使用を研究しているし、
リツマキシブとマイクロバイオームに対する研究はイギリスでも始まろうとしている。
その他、医療保険の打ち切りやLTD(長期障害年金)の支給の打ち切りを懸念している記事もみられた。
これまで、ME,または、CFSという病名で医療保険や年金を受け取っていた海外の患者たちは、
新診断基準に精神疾患の併発が含まれていることにより、支払いを打ち切られる可能性を指摘している。
また、残念なことに、このIOM基準が作られるために使用された過去の文献は、2014年4月ごろまでのものだということだ。
つまり、最近のファンクショナルMRIやPET、Quantitative EEGを使用して発見された脳の器質的な異常に関する研究は一足遅く、その研究結果はこの診断基準には反映されていないとのことだ。
シカゴのDe Paul大学でMEによる死亡者調査を考察
MEによって命を奪われた患者の家族、友人、介助者たちを対象にオンライン調査が行われるという記事が載っている。
この病気がどのような結果をもたらすか、どのような深刻な病であるかを調査するのが目的だそうだ。
ME患者の死亡者リストは、www.ncf-net.org/memorial.htm など、サポートグループが独自に集めた資料が存在しているが、
これを今回研究者がデータの収集を行うということだ。
ME患者の死亡について
2015年2月に死亡した3人のME患者のこともメールマガジン冒頭で掲載されていた。
今月、2月4日香港出身のVanessa Liさん、
同日に イギリスでBrenda Duncanさん、
2月3日オランダのMarijke de Jone が亡くなられたとのことだ。
もちろん、このように患者会などが発表する死亡者は、
Vanessaさんのようにご自身がME啓発家である場合や
ご家族が患者会との関わりがあるから報告されるのであって、
誰にも知られずに亡くなっていく方もおられるのは想像できる。
小児慢性疲労症候群患者の精神科病棟での隔離について
2月12日で、オランダのME患者のKarina Hansenさんが
精神科病棟に隔離されて2年が経つそうだ。
ヨーロッパのME/CFS事情は過酷である。
小児慢性疲労症候群の患者が不登校になるところから、法的な関与が始まり、
MEへの理解がない医療者や福祉士によって精神的な病とされ、
両親の同意なしに強制的に精神科病棟に入院させられ、
認知行動療法や段階的運動療法を強要され、
症状を悪化させるというケースが後をたたない。
最近流れたCFS患者に対する認知行動療法や段階的運動療法の起用について
ME/CFS患者に対する精神医学的アプローチで、
命を落とした患者が存在するなかで、
最近、ランセット誌に”CFS患者が恐怖のせいで運動ができない”という発表が載ったことで、
”CFSには認知行動療法や段階的運動療法がいい”というニュースが
飛び交ったのは記憶にあたらしい。
投稿された記事の中には、法的な手続きの中にあり自分の子どもが強制入院させられている、
または、させられる可能性がある小児慢性疲労症候群患者の家族は、
非常な恐れを抱いているということだ。
段階的運動療法の一貫として、不登校になっている子どもを段階的に学校に通わせるというプロセスも含まれているようで、
家で学習するほうがはるかにエネルギーを温存できるME患者を無理矢理登校させるということに関係者は懸念している。